KG-RCSP合同ゼミは,異なる大学・学部の複数のゼミが集い,メンバーの研究発表と外部ゲストの講演を交えた「多様性と類似性の相乗効果」の場です.毎回,ゼミメンバーの発表に加えて,興味深い研究をしておられる 「今,この人の話を是非聴きたい+学生たちに聴かせたい」と思える研究者をお招きして講演もしていただいています.
第10回目となる今回は,学生6名が自身の研究成果や研究計画を発表するとともに,関西学院大学文学部の伊藤友一先生・一言英文先生をお招きして行います.
【日時】2021年3月11日(木) 10:00-17:30
【場所】オンライン(Zoom)での開催
新型コロナウイルスの感染拡大が続いている状況を鑑み、今回の合同ゼミはオンラインで行います。参加には事前登録が必要です。
参加に際しては,以下のURLから事前登録をお願いします。アクセス要領が書かれた返信メールが届きます。ご不明な点は稲増一憲(k-inamasu@kwansei.ac.jp)にお問い合わせください。
https://zoom.us/meeting/register/tJMqcOyhrjwjGN2GwdSB_Dza697TrQlxrHxt
ミーティングID:977 7590 7929
登録完了後、「第10回KG-RCSP合同ゼミ確認」というタイトルで確認メールが届きます。「ここをクリックして参加」をクリックするか、ZoomにアクセスしてミーティングIDとパスワードを入力して参加してください。
第1部:ゼミメンバーによる発表
10:05-10:35 橘航大(関西学院大学社会学部4年)
自尊心の潜在的指標についての妥当性の検討―顕在指標の系統誤差の除去と収束的証拠の観点から―
近年の自尊心を用いた研究に潜在的自尊心を考慮した研究が増加している。しかし、顕在的自尊心尺度と潜在的自尊心尺度の間に相関が見られず、構成概念妥当性における収束的証拠が欠如しており、「同じ概念を測っていない」可能性が示唆されている。そこで、本研究では両尺度間の低い相関の説明をよりクリアにするために、アメリカと日本においてデータを取得し、心理統計学の点から自尊心の潜在的指標の妥当性を検討する。具体的には、妥当性の検証に大きな影響を及ぼす系統誤差(特に社会的望ましさバイアスと反応スタイル)に着目し、項目反応理論を用いて除去することで収束的証拠にどのような影響を与えるのかを検討した。 その結果、日本とアメリカの双方おいて収束的証拠が得られなかったことから、低い相関の原因が本研究で扱った系統誤差ではないことが示された。したがって、依然として潜在自尊心指標は、自尊心を測定できていない可能性が残ったままであることが示唆された。
10:35-11:05 中越みずき(関西学院大学社会学研究科博士前期課程2年)
日本の低所得層における保守政権支持の基礎的検討―システム正当化理論の観点から―
政治的混乱が相次ぐなかで、なぜこれほどまでに保守政権が長期化しているのか。日本の社会心理学領域においては、この問いに迫る試みはこれまでなされてこなかった。報告者は、保守政権存続を下支えする低所得層の政治態度に着目し「日本の低所得層はなぜ保守政権を支持するのか」というリサーチクエスチョンを掲げ、システム正当化理論の観点から3つの検討を行った。まず、社会調査データの二次分析によって、政治状況が全く異なる3時点のいずれにおいても、低所得層は、直接的・間接的に保守政党の優勢に寄与していることを明らかにした。次に、2つのweb調査によって、日本の政治文脈にもシステム正当化理論を適用しうること、そして、日本の低所得層においてシステム正当化傾向の高さは保守政党への投票へと帰結するが、システム正当化傾向の低さは政治不参加へと結びつくという、これまでのシステム正当化理論研究では議論されてこなかった「ねじれ」た構造の存在を示した。本結果は、日本における保守政権の長期化というパズルに対して、心理学に依拠した説明を与えることの有用性を示唆する。
(11:05-11:15 休憩)
11:15-11:45 長谷川凜人(関西学院大学文学研究科博士前期課程2年)
敬語と空間的上下との連合に社会的地位は介在するか
社会的地位はしばしば「上下関係」として表現される。Lu et al. (2014) は中国語の敬語と上下表象との連合に敬語の社会的地位が介在することを示した。本研究では、中国語同様に日本語の敬語が空間的上下と連合するか否かを明らかにするために、4つの実験を実施した。単語のカテゴリ判断後に矢印の向き (上 / 下) を判断する課題 (実験1) とその課題の前に個人主義・集団主義プライミング (実験2) を実施した結果、敬語―上下矢印の連合が認められたが、この連合に対する敬語の社会的地位の介在は明らかにならなかった。実験3・4では単語呈示後に画面上部 / 下部に呈示された標的の判断をする課題を実施した結果、敬語と上下位置との連合は認められなかった。以上から、日本語の敬語は上下矢印と連合するが上下位置とは連合しないことが明らかになり、敬語―上下矢印の連合に対する敬語の社会的地位の介在は明らかにならなかった。
11:45-12:15 牧野巧(関西学院大学文学研究科博士前期課程2年)
現実場面における周辺情報が表情認知に与える影響についての実験的検討
本研究の目的は周辺情報が表情から読み取れる感情に与える影響を検討することである。文脈効果が見られる写真にはどのような特徴があるのかを明らかにした上で、そのような写真の情報取得のタイムコースの実験的検討を行った。本研究ではニュース記事に掲載されている写真を使用し、顔のみの写真と背景のみの写真、写真全体から読み取れる情動カテゴリと情動価、情動強度を評価させた (調査)。情動強度が高いと評価されるほど、顔のみの写真と写真全体の情動価の差が大きくなることが示された。また調査で文脈効果が見られた写真を刺激として、背景の写真の呈示時間を操作した上で、顔から読み取れる感情の判断を行わせた。実験1の結果、50ミリ秒程度の背景写真の呈示で表情の判断に影響を与えることが示された。実験2では、実験1で正しく顔と背景の統合が行われていたことが示唆された。本研究の結果は、現実場面で文脈効果が見られる写真はスポーツ場面などの場面依存の効果であることを示唆した。またそのような写真は非常に早い段階から周辺情報を表情判断に取り入れることが可能であることが明らかになった。
(12:15-13:35 昼休憩)
13:35-14:15 大工泰裕(大阪大学人間科学研究科招へい研究員)
詐欺被害防止のための広報啓発の効果を阻害する心理学的要因に関する研究
日本における詐欺被害は未だ深刻な社会問題の一つである。本研究では「予防」・「看破」という詐欺の阻止機会と、これらの組織会での有効な介入手段と考えられる広報啓発に着目し、広報啓発の効果が阻害されてしまう要因を心理学的な観点から明らかにすることを目的とした。まず、「予防」に関しては、人々の詐欺に対する脆弱性認知が低い原因を責任帰属の理論から説明しようと試みた。次に、「看破」に関しては、詐欺の手口を知っているのに被害に遭うという現象を人間の情報処理過程から説明しようと試みた。発表ではこれらの研究から得られた実証的知見を共有し、効果的な詐欺の広報啓発について議論を行いたい。
14:15 -14:55 法卉(大阪大学人間科学研究科博士後期課程3年)
存在論的脅威が文化的世界観からの逸脱に及ぼす影響に関する実験的研究
新型コロナウイルス感染症の流行による死者数は2021年1月時点で世界で200万人を超え、その収束が未だに見えない状況である。しかし、このような危機的な状況において、マスクの着用やソーシャルディスタンスの維持など感染拡大防止策に、拒否的な態度を示している人がまだ大勢いる。1つの理由として、人々は元の生活スタイルを維持することで安心感が得られ、高まった死の恐怖を抑えようとすることが挙げられる。その裏付けとなる存在脅威管理理論は、人の多くの行動は死の恐怖の軽減によって動機づけられている(死の顕現化効果)と仮定している。しかし、今のような危機的状況を乗り越え、混乱の収束を迎えるためには、人は既存規範から離れ、新規範やそれによって生じる生活スタイルの変化を受け入れなければならない。ただし、そのような「逸脱」が生じるプロセスは、従来の存在脅威管理理論の枠組みだけでは説明することができない。そこで、本研究では「集団の死」と「突然の死」の想起が既存規範からの逸脱を生じさせる可能性があると仮定して検討を行い、その結果をご報告する。また、長く問題視されてきた死の顕現化効果の再現性について、本研究は死の顕現化操作の自由記述データを分析することにより、「死の想起は存在論的脅威を喚起する」との基本的仮定を検証し、存在脅威研究では初の試みとして死の顕現化操作の妥当性について議論したい。
(14:55-15:10 休憩)
第2部:招待講演
15:10 -16:10 伊藤友一先生(関西学院大学文学部)
未来思考のプロセスと機能
ヒトは自身が将来経験し得る事象について想像する能力を有している。それによって,将来への備えが可能になり,より豊かな生活が維持されていると考えられる。そのような能力は未来思考と呼ばれている。未来思考をすることは日々の認知活動に様々な影響を及ぼしている。本発表では,未来思考の持つ機能に関する研究,及び未来思考を支えるプロセスに関する研究を紹介する。特にプロセスについては,記憶システムに焦点を当てて議論する。
(16:10-16:20 休憩)
16:20 -17:20 一言英文先生(関西学院大学文学部)
社会文化的文脈における幸福感の意味と働き
幸福度ランキングなど幸福を定量化する試みは、近年社会の様々なセクターで関心を集めている。しかし、そこで測定されている幸福感の含意に見られる系統的な社会文化的多様性については研究の余地があり、特に幸福感の関係的含意や、その働きについては、社会文化的文脈や人のあり方を交えた検討が一定の意義を持つと考えられる。本発表では、幸福感の関係的含意としての協調的幸福感を測定した研究を紹介し、社会文化的文脈との関連と、その生涯発達パターンや健康との関連の文化差について論じる。特に、健康との関連においては、集団主義の適応的機能としての行動免疫に、身近な関係性で感じられる協調的幸福感が関わる可能性を検討した研究を紹介する。