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第15回KG-RCSP合同ゼミ

KG-RCSP合同ゼミは,異なる学部の複数のゼミが集い,メンバーの研究発表と外部ゲストの講演を交えた「多様性と類似性の相乗効果」の場です.毎回,ゼミメンバーの発表に加えて,興味深い研究をしておられる 「今,この人の話を是非聴きたい+学生たちに聴かせたい」と思える研究者をお招きして講演もしていただいています.聴講・議論への参加は,ゼミ内外,学部生/大学院生/職業研究者等々を問わず,どなたでも歓迎します.

第15回目となる今回は,センターメンバーが指導するうち大学院生4名が自身の研究成果や研究計画を発表するとともに,村山綾さん(近畿大学)をお招きした講演を行います.

対面のみの開催とします.ご参加に際して事前連絡は必要ありません.ご不明な点は三浦麻子(asarin@hus.osaka-u.ac.jp)にお問い合わせください.

【日時】2023年8月2日(水) 14:00-18:00(予定)

【場所】大阪大学吹田キャンパス 大学院人間科学研究科本館1Fインターナショナルカフェ(交通アクセス)※関西学院大学ではありませんのでご注意ください※

14:00 センター長あいさつ

第1部:ゼミメンバーによる発表(発表20分,質疑20分)

14:05-14:45 李 葎理(大阪大学大学院人間科学研究科博士前期課程2年)

非就業者への自己責任論に対する相対的剥奪の効果の検討

相対的剥奪とは,人が自身と類似した他者と比較して不満に感じることを指す。この傾向が強い人は,自分よりも立場の弱い人々に対して攻撃的になることが先行研究によって示されてきた。本研究では,相対的剥奪を感じている人が非就業状態の原因を個人的な要因へと帰属させやすいのかどうかを検証するため,相関的研究 (n = 334) と実験的研究 (n = 264) の2つのWeb調査を行った。その結果,相対的剥奪尺度得点の高さは非就業状態の個人的帰属を有意に予測した。しかし,操作された相対的剥奪感は個人的帰属に対して負の影響を示した。人々の慢性的な剥奪感が個人を非難するような原因帰属を助長させる可能性が示唆された。

14:45-15:25 井上心太(関西学院大学大学院社会学研究科 博士前期課程2年)

内集団ひいきの意思決定プロセスに対する数理モデルを用いた検討

人は同じ集団に所属する他者に協力的にふるまう。この行動傾向は内集団ひいきと呼ばれ、数多くの研究が行われてきた。特に実験場面における内集団ひいきは、現実には価値を持たない些細な条件によって参加者を二つの集団に割り当てる最小条件集団パラダイム(以下MGP)を用いて検討されてきた(e.g. 神・山岸・清成, 1996; Tajfel et al., 1971)。しかし、先行研究では、MGPにおける人々の具体的な分配のパターンをどのように変化させるかについては検討されていない。そこで本研究では数理モデルを用いてMGPにおける内集団ひいきを検討する。数理モデルを用いることで、協力行動のデータからはわからない人々の意思決定プロセスを表現することが可能となる。本研究では武藤(2006)のモデルを採用し、分配の意思決定を利他性と平等性の二つのパラメータに切り分ける。実験の結果、MGPにおいて外集団他者を分配の対象とする条件よりも、内集団他者を分配の対象とする条件の方が利他性が高いということが示された。当日では、中川ら(2015, 2019)の行った現実集団を対象とした内集団びいき研究を同様のモデルを用いた分析を行った結果も報告する。

(休憩10分)

15:35-16:15 三木毬菜(関西学院大学大学院社会学研究科 博士前期課程1年)

協力率の異なる他者がいる集団で人はどのように他者への協力期待を更新していくのか―モデルによる検討―

繰り返しのある社会的ジレンマゲーム(Social Dilemma Game: SDG)において、人はある社会的価値志向性に基づいて、また、他者の協力/非協力行動を社会的に学習することを通して自身の行動を決定するとしたモデルに水野・清水(2020)がある。彼らのモデルによると、人の協力行動の決定は、他者の過去の協力の履歴に基づく学習と利得構造から得られる収益に基づく学習に基づくとされる。しかし、水野・清水モデルでは他者全般の協力行動を学習する個人が想定されているので、他者全般の協力率に対する行動を予測する上では有効であるが、特定他者に対する協力行動の推測において人がどのような他者の行動履歴を参照するかについての予測は内包されていない。そこで、本研究では協力率の異なる他者がいる集団において、人がどのような個人を参照し、他者の協力行動に対する期待を更新させているのかをモデルを用いて検討する。

(休憩10分)

第2部:招待講演

16:25-17:55 村山綾さん(近畿大学国際学部准教授)

1. 日本人は何を、なぜ、変えたくないのか?―変化への抵抗とシステム正当化―

経済/ジェンダー格差、政治的イデオロギーによる対立、マイノリティに対する否定的反応といった、さまざまな集団階層や社会的カテゴリーを起因とする集団間葛藤が顕在化している。このような社会集団間の葛藤を低減させるために、個々人の意識や行動に働きかけることももちろん重要ではあるが、法律を含む社会システムを見直し、改善していく必要性も高いと考えられる。しかし一方で、人はたとえ現状の社会システムに問題があり、機能不全を起こしていたとしても、そのことを織り込み済みで“予測可能な世界”を選好することがこれまでの研究で示されてきた(Kay & Jost, 2003)。結果として、社会集団間葛藤を低減させるための社会システムの導入は遅れ、現状の問題がさらに複雑化、深刻化するという状況に陥っているように見受けられる。本発表では、上記のような背景を踏まえつつ、日本人に焦点を当てて行ってきた変化への抵抗、ならびにシステム正当化理論(Jost, 2020)に関わるいくつかの研究を紹介したい。具体的には、日本社会において、どのような変化が受け入れられにくいのか、変化への抵抗と関連する変数はどのようなものかについて取り上げる。また、新型コロナウイルス感染禍における日本の医療システムへの脅威や依存とシステム正当化との関係について検討した研究も紹介する。

2. 3人の子育てと研究生活

2008年に博士号を取得した2ヶ月後に長男を出産、それから約15年…、子育てと研究活動は現在も継続中です。特に子育てに関しては、3人のうち2人が一卵性双生児だったこともあり、なかなかレアな経験をしてきたのではないかと思います。一般化は難しいですが、1つの事例として、3人の子育てと研究活動をなんとか続けてきた(こられた)中で考えたこと、今あらためて振り返ってみて思うことなどを皆様と共有できればと思います。